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【総括】アゲハチョウの幼虫 種類 見分け方 時期 成長過程 育て方

アゲハチョウの幼虫って、どうやって育てたらいいの? どんなふうに成長するの? 幼虫の種類って、簡単に見分けられるの? 活動時期はいつ頃? そんな疑問がありますか?

アゲハチョウは身近な昆虫ですが、育てるとなるとそれなりの知識が必要です。飼育は難しくありませんが、幼虫の習性を理解していないと、最悪の場合死なせてしまうかもしれません。

我が家では毎年300匹ぐらいアゲハチョウの幼虫を育てています。その経験からいろいろなことがわかりました。

この記事では幼虫の種類、見分け方、活動時期、成長過程、育て方などの基本的なことだけでなく、餌の食べ方やおもしろい習性についてもわかりやすく解説しています。最後までご覧になれば、幼虫に関する大方の疑問は解消するでしょう。

アゲハチョウの幼虫

種類・時期・食べる葉っぱ

アゲハチョウは完全変態する昆虫。孵化した幼虫は通常4回(ごく稀に5回)脱皮して齢数を重ね、蛹を経て成虫になります。

日本国内を分布域とするアゲハチョウは以下のとおり。

ナミアゲハ

並揚羽(学名: Papilio xuthus)

全国的に最もよく見られるアゲハチョウ。「ナミアゲハ」は俗称で、「アゲハ」、「アゲハチョウ」と呼ばれることが多い。

分布域国内全域
活動時期4~10月
食草ミカン科植物(ミカン,レモン,サンショウなど)

クロアゲハ

黒揚羽(学名: Papilio protenor)

大型のアゲハチョウ。1,2齢幼虫は胸部に2本突起がある。穏やかな性格でおっとりしている。

分布域本州以南
活動時期5~10月
食草ミカン科植物(ミカン,レモン,サンショウなど)

アオスジアゲハ

青条揚羽(学名: Graphium sarpedon)

成虫の翅が色彩豊かなアゲハチョウ。幼虫はずんぐりした形。2,3齢幼虫は胸部が黒ずむ。街路樹にクスノキを多用する関東都市部に多い。

分布域東北南部以南
活動時期5~10月
食草クスノキ科植物(クスノキ,タブノキ,ニッケイなど)

キアゲハ

黄揚羽(学名: Papilio machaon)

ナミアゲハと並んで広く知られるアゲハチョウ。幼虫は全身縞模様で派手な外見。

分布域国内全域
活動時期4~10月
食草セリ科植物(パセリ,ミツバ,ニンジンなど)

ジャコウアゲハ

麝香揚羽(学名: Byasa alcinous)

国内で唯一毒を持つアゲハチョウ。終齢幼虫も黒い変わり種。餌が無くなると共喰いする。

分布域本州以南
活動時期5~10月
食草ウマノスズクサ科植物(ウマノスズクサ)

ナガサキアゲハ

長崎揚羽(学名: Papilio memnon)

国内最大級のアゲハチョウ。1~3齢幼虫は胸部に2本突起がある。成虫は翅に尾状突起がない。

分布域関東以南
活動時期5~10月
食草ミカン科植物(ミカン,レモン,サンショウなど)

モンキアゲハ

紋黄揚羽(学名: Papilio helenus)

ナガサキアゲハと並ぶ国内最大級のアゲハチョウ。幼虫はクロアゲハと酷似。4齢になると黄色い斑点が目立ち始める。

分布域関東以南
活動時期5~10月
食草ミカン科植物(ミカン,レモン,サンショウなど)

その他

その他国内で観察できるアゲハチョウは以下のとおりです。

カラスアゲハ

ミヤマカラスアゲハ

オナガアゲハ

シロオビアゲハ

ミカドアゲハ

ベニモンアゲハ

これらは残念ながら飼育経験がなく、近所(東京都江戸川区)では見たことがありません。おそらくこの中で生息しているのは、カラスアゲハとオナガアゲハぐらいでしょう。

というわけで、自前の画像がありません。

申し訳ありません。

画像その他の情報はこちらのサイトでご覧になれます。

成虫はこちら( 昆虫エクスプローラ・アゲハチョウ図鑑

見分け方は難しい

前掲のとおり、ほとんどの幼虫の色は若齢が、終齢がです。

例外は1種。

ジャコウアゲハ終齢幼虫

ジャコウアゲハだけは終齢幼虫になっても黒いままです。

齢数にかかわらず、幼虫は種類ごとに色も模様も多様。そこに規則性があるわけでもありません。単体で種類を特定するには、図鑑などを使って見比べるしかないでしょう。

私が参考にしているのは 蝶の幼虫図鑑 です。他のサイトに比べ、若齢も終齢も画像の数が多いので助かります。

代表種ナミアゲハとクロアゲハの見分け方は、こちらの記事でご覧ください。

完全変態の成長過程

アゲハチョウは完全変態する昆虫。脱皮を繰り返し、幼虫から蛹を経て成虫へと成長します。

卵は産卵後、概ね3~5日で孵化。幼虫はこんな感じで出てきます。

ナミアゲハの孵化。10倍速。

このあと、脱皮を繰り返してぐんぐん大きくなります。

その成長過程はこちらの記事でご覧ください。

育て方は難しくない

幼虫の飼育は難しくありません。必要なものは幼虫を入れる容器と餌、蛹化時に使う枝や割り箸ぐらいです。

以下の点は押さえておきましょう。

  • 餌(食べる葉っぱ)の調達
  • 飼育環境の設定
  • 寄生虫対策
  • 蛹化の準備
  • 羽化の準備
  • 越冬の準備

具体的な飼育方法に関してはこちらの記事をご覧ください。

共食いはする?

ジャコウアゲハの幼虫は餌がないと共喰いします

ほかはどうか。基本、共食いはしませんが、絶対しないというわけではありません

滅多にないことですが、狭い空間で体格差がある幼虫を飼育していると、共食いすることがあります。

こちらの記事をご覧ください。

餌の食べ方

幼虫の餌の食べ方はユニークです。

クロアゲハは几帳面

クロアゲハは柑橘類の葉っぱをこんなふうに食べます。

まず、主脈(葉っぱ中央の太い葉脈)の片側だけを付け根のほうから食べます。

その後、残った片側を同じように食べます。

几帳面。

最後に残った主脈はこうします。

時間がかかるので早送り。

なんでここまで苦労して主脈を切り落とすのか。

おそらく、食痕を残さないため。つまり天敵に居場所を突き止められないようにするためです。

ナミアゲハは芸術的

ナミアゲハも基本的に同じ食べ方をしますが、主脈は切り落としません。

面倒臭いことはしないたちか。(笑)

山椒の葉っぱはこのように手前から1枚ずつ平らげていきます。

そのため、枝ぶりがこんな芸術的な形に。

我が家ではこれを“生け青虫”と呼んでいます。

アオスジアゲハは早食い

アオスジアゲハはやみくもに早食い。

前者のような几帳面な食べ方はしません。

速い‼

クスノキの葉っぱは柔らかいためか、主脈も一緒に一気食い。

他の幼虫と比べると食べるスピードがやたら速く、早送りの動画を観ているようです。

それでも用心深く、すごい勢いで食べていても、周りで物音がすると食べるのをやめます。しばらくそのまま動きません。

臆病者。

食べ残した葉っぱはこうします。

葉っぱの付け根まで戻り、食べ残した葉っぱを切り落とします。

あとで食べればいいのに。

もったいない。

なんでこうするのか。

これもおそらく食痕を残さないため。防衛策です。

おもしろい習性

餌の食べ方以外にも、おもしろい習性がいろいろあります。

餌場とホームは別

幼虫は基本、餌場とホーム(摂食時以外の居場所)を別にします。

つまり、自分のホームにする葉っぱを決めていて、空腹になるとそこから出掛けていって餌を食べ、食べ終わるとホームに戻ってくるということ。

ホームに戻ってくると、葉っぱ全体を一度巡回します。留守中に異変が起きていないかどうか、確認しているのかもしれません。

用心深いね。

それから定位置に鎮座。

ホームにしている葉っぱの中なら、どこでもいいわけではないようです。

ホームで休憩中。

このように食痕から離れた所で落ち着くのも、おそらく防衛本能でしょう。

大きくなるとホームを独占

体が小さいうちは、

このようにホームを共有していますが、大きくなってくると独占したがります。

ホームに侵入者が入ってくると、こうなります。

すごい剣幕ですね。

でも、こういうこともあります。

仲良く同居? それとも追い出せなかったのか。

でも、これは一時的です。

糞を遠ざける

当然ながら、ホームにしている葉っぱではよく糞をします。

糞が下に落ちればいいのですが、葉っぱに乗ったままだと、

吹っ飛ばします。

手際じゃなくて”口際”がいい。

これはホームに限ってのことではありません。

食べている途中で気づきました。

近くに糞がたくさんたまっていると、わざわざ降りてきて片づけることも。

これはナガサキアゲハの4齢幼虫。

かみさんが意地悪をして糞を寄せています。

これもおそらく居場所を突き止められないようにするためです。

脱け殻を食べる

幼虫は脱皮した後、脱け殻を食べます。

これはクロアゲハ4齢幼虫の脱皮。

最後に口から出したように見えるのは、頭部の抜け殻。

このあと戻ってきて脱け殻を食べます。

完食。

孵化した後は卵の殻を食べます。

これはナミアゲハ。

無駄を出さないクリーンなエコロジー。

栄養補給と共に、これも居場所を知られないようにするためでしょう。

幼虫が成虫になるまで

以上、アゲハチョウの幼虫についていろいろ書きました。

終齢幼虫が前蛹になり、前蛹が脱皮して蛹になり、羽化して蝶になる様子も載せておきます。

糸掛け 終齢幼虫~前蛹

終齢幼虫は蛹化ホルモンが出ると、蛹になりやすい場所を決めて体をとめる糸を掛けます。

これはナミアゲハの糸掛け。

(3倍速)

最後の糸をくぐるところ。

糸掛けは20~30分かかります。

ナミアゲハの前蛹

前蛹になりました。

脱皮 前蛹~蛹

前蛹は1~2日経つと脱皮します。

前掲と同じナミアゲハの脱皮。

(5倍速)

脱皮は7~8分かかります。

蛹化後間もないナミアゲハの蛹

脱皮後間もない蛹。

擬態完了後ナミアゲハの蛹

擬態完了後の蛹。

羽化 蛹~成虫

ナミアゲハ、キアゲハなど普通サイズのアゲハチョウは蛹化後概ね7~10日、クロアゲハなどの大型種は10~14日で羽化します。

これはクロアゲハの羽化。

(10倍速)

気持ちええやろなぁ。

あとがき

以上、アゲハチョウの幼虫を育ててわかったあれこれ、幼虫の種類、見分け方、活動時期、成長過程、育て方、餌の食べ方、おもしろい習性について書きました。お役に立てば幸いです。

ちっぽけな虫でも、観察しているといろいろな発見があっておもしろいですね。興味は尽きないというほどではありませんが、昆虫学者の喜びが少しわかったような気がします。

ほんまか。

2018/2/24,2023/3/3

コメント

  1. gだったかな? より:

    先日 黒と透明、白い爪のようなものが2つ
    何でしょう? の質問をしたものです。
    解答が、ここにありました!
    前蛹の脱皮の脱殻です。
    今までは、糞の中に紛れていて、気づかなかったようです。
    今回は、全て蛹になっていて、糞は片付けた後なので発見できたようです。
    お騒がせしました。

    昨年から孵化を試みています。
    回を重ねるごとに発見があり、生き物の生きるということに感動してしています。

    手探り状態のときにココを知りました。たくさん参考にさせていただいています。ありがとうございます。
    見方がわかったので、インスタとYouTubeでフォローさせていただきます。

    これからもよろしくお願いします。

    • たむら船堀たむら船堀 より:

      いえいえ、とんでもない。答えが見つかってよかったです。

  2. そのこ より:

    こんにちは。
    サイト、いつも有り難く参考にさせて頂いています。
    元気に成長していた幼虫が蛹化の途中で失敗している模様です。何故か下半分だけ脱皮してしまい、上半分の皮が残ってしまいました。霧を拭いてふやかして、なんとか取れるだけの皮はピンセットで外したのですが、肝心な頭の部分がどうにもなりません。無理をして傷つけては不味いと思うのですが、お面の部分とその下の節の間に大きなくびれがあるままにお面部分の皮が硬くなってしまっています。もしも救済の方法をご存知でしたご教授頂けないでしょうか?

    • たむら船堀たむら船堀 より:

      そうなってしまったら放置するしかないと思います。もしかしたら生き延びるかもしれません。

  3. あるさん より:

    小学校1年の息子がナミアゲハの幼虫を捕まえて来て、飼育中です。
    いつ蛹になるかなぁと様子を見ていたら、枝を行ったり来たり、逆さになったりし始め、何だろうと調べてこのブログに。分かりやすく、何より面白く、笑いながら読んでいて、ふと我が家の幼虫を見たら体に糸を付けようとしていて感動!挿入してあった動画を感激しながら見ていた最中だったので、同じ状況にまた感動。思わず、コメントをしています。うちの子は、糸を何度も何度も行き来してどんどん強くなっているようで、応援しながらのコメント書きです。幼虫の綺麗さと可愛い動きにメロメロです。情報をありがとうございました。ちなみに、糞吹っ飛ばし画像に爆笑しました。

    • それはグッドタイミングでしたね。アゲハチョウの飼育はお子さんの情操教育にうってつけでしょう。
      笑いと感動をお届けできてよかったです。糞飛ばしは こちらの記事 にも幾つかありますので、ご覧になってみてください。
      励みとなるコメント、ありがとうございました。

  4. まり子 より:

    コメントを書かせていただいている間に羽化してました!
    こちらは東海ですが、今は風が強いです。台風でも早くケースから出して放したほうが良いでしょうか?

    • たむら船堀たむら船堀 より:

      羽化しても翅が乾くまで、少なくても3時間程度は飛べません。自分から飛ぶまで待ったほうがいいのですが、台風の最中に放すのはかわいそうですよね。私なら台風が通り過ぎてから放します。

  5. まり子 より:

    いつもありがとうございます。

    アゲハの幼虫のためにレモンの葉を採集した時に、葉にくっ付いていた幼虫をそのまま飼育していました。初めは、他のナミアゲハの幼虫と変わりなかったのですが、だんだん身体の表面に光沢が出てきて、模様や形が一匹だけ野生的になってきました。他の五令より大柄ですし。自然の中で孵化した子なので個性的に育ったと思っていましたが、こちらのナガサキアゲハの幼虫の画像を見たらそっくりです。ナミアゲハの幼虫は飼育ケースで孵ったせいか、一度もツノを出したことがありません。その異質な幼虫はすぐに威嚇していましたが、私を覚えてくれたのか葉っぱで触っても怒らなくなりました。

    蛹が一つ、頭のほうから黒くなってきました。台風が過ぎたあとに羽化となりそうで、ほっとしてます。